カナダ先住民文字(カナダせんじゅうみんもじ、カナダ先住民シラビックスとも)は、カナダ先住民のいくつかの言語を表記するための文字で、イギリス出身の宣教師ジェームズ・エヴァンズ(英: James Evans)がデーヴァナーガリーと英語のピットマン式速記をもとに1840年に考案したクリー語およびオジブウェー語表記のための文字と、それを他の言語のそれぞれの音韻体系に合わせて修正したものの総称。
特徴
一文字が一音節を表すが、子音を表す文字の向きによって後に続く母音が決まるという体系から、音節文字ではなくアブギダに分類される。この文字群の名称のsyllabiques(シラビックス)に「音節文字」の訳が当てられることがあるが、文字分類における「音節文字」を指す語はsyllabaire(シラバリー)であり、これらは慎重な区別を要する。
歴史
イギリス人のメソジスト派宣教師であったジェームズ・エヴァンズは現在のマニトバ州にあるノルウェー・ハウスに赴任し、オジブウェー語のために最初はラテン文字を使った表記法を考案したが、チェロキー文字の成功に影響されて、自らもデーヴァナーガリーと速記を元にした音節文字を作成した。1840年にエヴァンズはこの文字をオジブウェー語に近いクリー語のために改訂し、翌年賛美歌集をこの文字で印刷した。またイギリスに注文して活字も作成した。他の伝道所はクリー文字の採用をためらったが、先住民はこの文字を自主的に普及させた。その後、1850年代にエヴァンズの文字に追加と標準化を加えた東部正書法が作られ、ジェームズ湾の東のクリー語とナスカピ語、およびオジブウェー語の表記に使われた。
使用状況
現在この文字は、クリー語、オジブウェー語のほか、イヌイットの話すイヌクティトゥット語の表記にも使用される。ただしこれらの言語の中でも、この文字をまったく使用せずラテン文字表記のみをする地域・方言もある。以前はブラックフット語、キャリア語、スレイビー語、チペワイアン語などでも使用されていたが、すべてラテン文字表記に移行している。
イヌクティトゥット語のシラビックスはクリー語のものに不足した文字を追加したものだが、1976年に改良され、イヌクティトゥット語のすべての音を表現できるようになった。ラテン文字も使われているものの、主にシラビックスで書かれる。1999年に成立したヌナブト準州では英語、フランス語とともにイヌクティトゥット語などのイヌイット語を公用語としており、シラビックスで書かれたイヌクティトゥット語は政府の公式サイトなどにも使われている。
- 音節末の形が2種類あるものは、左がより古い西部正書法(調音部位を象徴)、右は東部正書法(母音aで終わる形を小さくしたものだが、時に母音iで終わる形が使われることもある)。
- 母音が e i o a の順に並ぶのは、エヴァンズがこれらの母音を英語式ラテン文字で a e o u と表記していたためで、実はラテン文字の字母の順になっている。
- 母音 e で終わる形が ᐁ e のように左右対称の字や ᔐ she のように180度回転すると同形になる字は上下反転すると i で終わり、左に90度曲げると o、右に90度曲げると a で終わる字になる。それ以外の字は左右反転で i、上下反転で o、180度回転で a で終わる字になる。ただし後から追加された ᕂ r はこのパターンに従っていない。
Unicode
1999年のUnicode 3.0で、基本多言語面のU 1400からU 14DFまでに収録された。
2009年のUnicode 5.2で、MARCへの対応の必要性から、U 18B0からU 18FFまでに新たなブロックが追加された。
脚注
参考文献
- Nichols, John D. (1996). “The Cree Syllabary”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems. Oxford University Press. pp. 599-611. ISBN 0195079930
外部リンク
- 『クリー文字』地球ことば村・世界の文字。http://www.chikyukotobamura.org/muse/wr_namerica_6.html。
- 『エスキモー文字(イヌイット文字)』地球ことば村・世界の文字。http://www.chikyukotobamura.org/muse/wr_namerica_5.html。
- 表示できるフォントについて
- Free UCS Outline Fonts Project - Free UCS Outline Fontsのうちの「FreeSans」が対応(ダウンロード先)。
- LANGUAGEGEEK FONTS - 対応フォント「Aboriginal Sans」「Aboriginal Serif」を入手可能
- Quivira - 多種の文字を収録した「Quivira」
- Google Noto Fonts - 「Moto Sans Canadian Aboriginal」が対応。




